2017年12月21日木曜日

磁石インプラントまとめ

 これは人体改造 Advent Calendar 2017の記事です


注意!
 この記事は私個人が行った実験の記録するのみであり,実験の再現性・安全性を保障するものではありません.決して本実験を真似されることのないよう,お願いします.
 この記事はグロテスクな内容の話や写真を含みます.苦手な方はブラウザバックをお勧めします.



 私は今年の春,自分の指を切開し磁石を埋め込みました.これについては以前このブログに公開しており,ニコニコ動画にも投稿していますが,今回は実験の初めから終わりまで,すべて1つにまとめた記事とします.



・なぜ指に磁石を埋めたのか?
 実は磁石を指に埋めるというのは材料の入手が容易であり,操作も複雑でないことから海外の人体改造クラスタの中では珍しくなく,"Magnetic implant"などのワードで検索すると多くのアマチュア人体改造マニアによるDIY手術の記録を見ることができます.また,英語版Wikipediaでは磁石インプラントに関するページがあり,磁石インプラントの歴史や使用する磁石の種類・形状等について書かれています.
 指に磁石を入れることでできることはたくさんありますが,その中でも特に私がインプラントを実行するきっかけとなったのは「磁場を感じられる」ということです.磁石の入った指に磁場が入射すれば指の中で磁石が動き,本来感じることのできない磁場を触覚に変換することができます.


・器具の準備
 やると決まれば早速器具を準備します.こんな時代ですから大抵のものはネット通販で揃ってしまいます.とはいえやることは手術ですから,物は慎重に選びました.

 諸々手術器具
 メス,針付きナイロン糸などの必要な器具を揃えました.当方素人,とりあえずいろいろな種類のものを余裕を持った個数購入しておきました.

 衛生関係
 磁石を埋める際はそれなりに深くメスを入れるため,使用する器具や実験を行う環境は滅菌されている必要があります.手の殺菌,周囲の殺菌,メスなどの滅菌,埋め込む磁石の滅菌など・・・.本実験では以下のようなものを使用しました.
 手の殺菌:イソプロパノールを含む傷口消毒用のコットン(?)で手を殺菌しました.病院で採血するときに腕を拭く小さい布みたいなアレです.
 周囲の殺菌:消毒用アルコール(70%エタノール)で徹底的に机やその周辺を殺菌.この処理は十分とは言い難かったと思います.
 メスなど:4%水酸化ナトリウム水溶液に浸したのち精製水で十分に洗浄して使用.なお,ガーゼや使い捨てメスは滅菌済みのものを購入しており,本実験ではじめて開封するものであったためはじめは特に滅菌処理はしませんでした.
 磁石:アルコールで脱脂洗浄後4%水酸化ナトリウム水溶液に浸し,精製水で十分洗浄して使用.

 麻酔
 指に切り込みを入れるので,やはり麻酔はしたいですよね.まともな麻酔薬を手に入れられる環境ではないので,氷による冷却麻酔+麻酔成分を含む殺菌軟膏 という組み合わせで麻酔を行いました.

 磁石の下準備
 今回用いた磁石は円盤型のネオジム磁石(直径3mm,厚さ1.4mm)です.一般にネオジム磁石は表面にニッケルメッキが施されています.ニッケルは体内では容易に腐食され,イオンとして溶け出すことで炎症の原因となります(いわゆる金属アレルギー).そのため,磁石の上にさらに何らかのメッキを施してニッケルの腐食を防ぐ必要があります.本来金属を埋め込む必要のあるインプラント手術ではチタン製の物が使われますが,本実験ではより形成が容易な電解金メッキを採用しました.金の錯イオンを含む溶液を作り,磁石を電極として電気分解することで表面に金を析出させ,メッキとする手法です.


 溶媒としてはヨードチンキを用いています.電解時の電圧が高いと表面に黒色の微粒子が析出してしまいうまくメッキできなかったので,低い電圧で数秒間電解→いったん取り出して4%水酸化ナトリウム水溶液を含む布で力を入れて拭く→電解槽に戻す,という操作の繰り返しにより金色の金メッキを形成することができました.
左:メッキ済み磁石 右:メッキなし

作成したメッキ済み磁石は4%水酸化ナトリウム水溶液中で保存しました.



・施術
 準備が終わったらいよいよ手術実行.必要なものを作業台の上に並べ,漏れがないようアルコール消毒を行いました.
 麻酔軟膏を施術予定の指にべったり塗り,ラップと包帯を巻いた状態で手を氷の中に突っ込んで感覚がなくなるまで待ちました.40分ほど要しましたが指の感覚は完全になくなりました.

 麻酔ができたら軟膏を滅菌ガーゼでふき取り,指にメスを入れます.開封直後のメスは大変に切れ味が良く,あたりをつけようと軽く肌にあてたところ小さな切り傷ができて血がにじむほどでした.麻酔により痛みは感じないので躊躇なくメスを入れていきます.

ここに決めた!

えいっ(グサッ,グリグリ

血液ダバァ

 麻酔のおかげで全然痛くありませんでしたが自分の血を見て貧血になりました.貧血で気持ち悪くて休み休み作業してたため一番重要な磁石入れるシーンが撮影できていませんでした.ごめんなさい.開けた穴に磁石を埋め込んで完成です.

 針付きナイロン糸等も用意していたのですが,そんなに大きな切込みではないので縫合せずテープで済ませました.多分ちゃんと縫合したほうがいいと思います.
 傷口が塞がるまでが手術です.その後も傷口周辺は清潔に保ち,結構長いこと包帯巻いてました.


・指磁石でできること
 以上で磁石を埋め込む手順について説明しました.次は指に磁石を埋め込んだことでできたことを紹介します.

・強磁性体をくっつける

 磁石が入っているので,軽いものであればクリップなどを持ち上げることができます.

・方位磁石を動かす


方位磁石に指を近づけると針は指の方を向きます.iPhoneの方位磁石アプリもこれによって誤動作することを確認しました.


・絵を描く
砂鉄が入っていて,磁石のペンでお絵かきするタイプのおもちゃです.



 

 磁場を感じる
 いちばんやりたかったやつ.磁石からの磁場はもちろん,ある程度大きな電流が流れている導線付近ではその電流が作り出す磁場を感じることができ,それにより電流の有無を感じることができます.また,時間変化する磁場も感じることができます.60Hzで数A電流が流れている電子レンジのケーブル付近では磁場が振動している様子がわかりました.これについてはあまり実験を行っていませんが,周波数や電流の大きさにより磁場の感じ方が異なると予想されるため,校正(?)を行えば電流計や周波数カウンターになれる可能性があります.
振動する磁場を感じている様子


指磁石のその後
 ここまで指磁石に対する情熱を語ってきましたが,結局現在私の指に磁石が入っているのかと聞かれると,答えはNO.磁石を入れてからわずか1か月程度で指が炎症を起こし始めました.

 指が痛痒く,膿がたくさん出ていたので1日に何回も膿を絞り出していました.これがニッケルによるアレルギーであることは容易に想像がついたので,指切除とかになる前にと思い再び指にメスを入れました.膿んでいたため簡単に磁石を取り出すことができました.
磁石from指

摘出した磁石は一部緑色に変色していました.
 金はやわらかい金属であるため,指というよく動く・物に当たる部位の中ではメッキがこすれてはがれやすいと考えられます.指に入れる前の磁石は少なくとも肉眼では全体が金色であったので,ほんの小さな穴ができるとそこから体液が内部に侵入し,次々腐食を起こすことが磁石の緑色の部分の広さから想像できます.
 先に述べた通り,インプラントではチタン製の物を使うのが一般的です.磁石を入れる場合はチタンメッキや窒化チタンのコーティングをしたものが良いようで,やはり金のようなやわらかい金属は不適のようです.

 実験の一部始終は以上になります.次に,指磁石の使用者の声としてまとめに入りましょう.

・指磁石の利点
 ・磁場や電流を感じられる
 指磁石の最大の利点はやはりなんといっても磁場や電流を感じられることです.本来知覚できないものを知覚できるのはとても面白いです.

・指磁石の欠点
 ・強磁場に弱い
 磁石の入った指に磁場がかかればその磁場を感じることができますが,その磁場があまりにも強いと指の中の磁石が強く引っ張られるため痛みを感じます.私は以前,部屋に置いていた大きな磁石に気づかずにその付近に手を伸ばしてしまい,指の磁石の周りを内出血させてしまったことがあります.磁石同士が及ぼしあう力の大きさは距離のナントカ乗(形状などによりナントカの値は変化)に比例するため,磁石に十分近づかなければその強磁場に気づかない,といった危うさもあります.
 こういったことがあったので,磁石を摘出した今でも研究室の強磁場発生装置などを見ると一歩後ずさりしてしまいます.
 ・MRIが使えない
 これが最大の欠点だと思います.MRIはそこらの磁石とは桁違いの強磁場を扱うので,前述の内出血どころではなく,指の中,運が悪ければ腕などの中で磁石が暴れまわり皮膚を突き破ってMRIの機械に突撃,修理費ウン億円,なんてのもあり得ます.また,MRIは外部磁場に非常に敏感で,小さな磁石や電気回路ひとつでも像が乱れてしまうといった話も聞いたことがあります.以上の理由から指に磁石を持つ人はMRIなどの強磁場を用いた医療サービスを受けられなくなります.
 ・メッキがはがれると金属アレルギーを発症する
 すでに述べた通り,磁石のメッキが体内ではがれると体質関係なく金属アレルギーを発症します.特に指などのよく動かす部位においてはメッキの寿命は短くなります.
 また,これはDIY手術についての欠点ですが,やはり感染症等のリスクが大きいです.

 結論
 ・指に磁石を入れると磁場を感じることができる.
 ・金メッキは1か月しか持たなかった.メッキがはがれるとアレルギーを発症して痛い.ニッケル中毒で指を失う可能性もある.
 ・総合的に見て指磁石は利点より欠点のほうが多い.特にMRI等医療サービスを受けられなくなるのは場合によっては命に係わる問題となる.
 ・指に磁石を入れる際はDIY手術ではなくまともな機関での施術が望ましい.


 参考
(1) Cody's Lab : Diy Magnetic Implant https://youtu.be/tVVTSXA0HTU
(2) Cody's Lab : Removing Magnet from Finger https://youtu.be/Y1O1aG-WG4w
(3) Cody's Lab : Magnetic Finger Update; 2 years later https://youtu.be/x2cNmtO3YXw
(4) The Thought Emporium : A first step into cybernetics: Magnetic finger implant (scalpel method) https://youtu.be/dHmpQGvCcGM
(5) The Thought Emporium : The Complete Guide to Magnet Implants https://youtu.be/3aVwvJn7vpo
(6) wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Magnetic_implant













2017年10月31日火曜日

Hallogeen



 正しくはhalogen.左から塩素,臭素,ヨウ素.全て気体がうっすら見えるようにしました.フッ素,アスタチン,テネシンは欠席です.
 ヨウ素は撮影後冷えて瓶の壁面にきらきらとした個体が付着しました.

その他写真

2017年10月5日木曜日

陶芸家になろう 2.素焼き

 前回練った粘土が乾きましたので

 炉に入れて焼いてみました.まずは大きい方から


 素焼きは一体どれくらいの時間,どれくらいの温度で焼くんだろう?そんなことさえわからなかったので一回目は様子見.この炉は600W電熱線の出力を秋月調光器で調節して使っています.温度計はついていないので頼りになるのは調光器のツマミのみ.とりあえず,ツマミがフルパワー時の1/3の位置で10分,その後1/2に切り替えて10分,また1/3に戻して10分,といった具合でやってみました.焼いている途中に炉の蓋を開けてみると・・・

 黒くなってる!
 
 加熱を終え,触れるくらいまで冷えたら炉から取り出しました.

 外側の高温になる部分は黒くないので,全体が黒くなくなるまで加熱する必要があるのかな?と思いました.また,非常にもろく,内部も真っ黒でした.軽くなってはいるものの成功とは言い難い・・・

 では,次の小さい方はもっと長時間焼いてみましょう.ときどき炉の蓋を開けて内部を確認しながら焼きました.

 結局,全体が黒くなくなるまでハーフパワーで2時間かかりました.炉も調光器の放熱板もアツアツ.
 その後1時間くらい冷やし,炉から完成品を取り出してみました.


 これぞ素焼き,といった素晴らしいレンガ色.素焼きはこれでよさそうです.ヤッタネ!

 今後はこれに釉薬を塗り,本焼きをします.すでに釉薬は作り始めているので,容器を倒してこぼさなければ次回は釉薬の記事になるかと思います.





2017年9月30日土曜日

陶芸家になろう 1.ねんどづくり

 最近,Primitive Technologyさんの動画にハマっています.土と植物と石からさまざまなものができていくのは見ていてとても楽しい.影響されやすい私は土で何か作ってみたくなりました.

 さっそくバケツに適当な土を1Lくらい入れてみた.

 土器を作るためには粘土が必要です.しかし私が用意した土では大きめの石が目立ちますね.このままでは土器には使えないので石や砂と粘土とを分離する必要があります.
 そもそも,粘土とか砂とか石(礫)ってなんのこと?という話ですが,これらは粒子の大きさによって大きい方から礫,砂,泥,粘土・・・と分類されています.土器を作る際に使用するのは砂よりも細かいものです.
 粘土とその他を分けるために,バケツに水を入れました.

 水中で土をかき混ぜると粒の大きいものが先に沈みます.特に礫・砂はすぐに沈み,その上に泥・粘土の懸濁液(要するに泥水)ができます.この液を集めて水を取り除けば粘土ができるというわけですね.



 泥水を他のバケツに移し,また同じ土に水を混ぜて泥水をつくる,の繰り返しでバケツ1杯分の泥水を作りました.時間が経つとバケツの底に泥と粘土が沈殿します.1時間ほど泥水を放置し,上澄みを取り除きました.

 これを練りやすい硬さになるまで乾燥させたら粘土の完成です.

 この粘土を土器にするためには,土器の形に練って乾かしたのちに高温で焼く必要があります.PrimitiveTechnologyさんのように木をガンガン燃やせるなら大きいものをつくっても良いのですが,煙がたくさん出るので住宅街ではできそうにありません.そこで,今回は以前作った電気炉を使って土器を焼いてみることにします.

 とても小さいので,これに入るように形を作らなければなりません.実際に練ってみると,思い通りの形を作るのは非常に難しかったです.陶芸用粘土ならもっと練りやすいかと思います.

 不格好な器になりました.素焼きを行うためには乾燥させる必要があるので,数日~数週間干すことにします.


 割れずにできたらこの記事の続きを投稿すると思います.






 参考
・Primitive Technology https://www.youtube.com/channel/UCAL3JXZSzSm8AlZyD3nQdBA
・The King of Random - How To Make CLAY from DIRT https://www.youtube.com/watch?v=OGuYNwp1OUY

2017年8月30日水曜日

胆礬を作る

 胆礬(カルカンサイト,chalcanthite)とは,天然に鉱物として存在する硫酸銅五水和物のことです.実家で暇な時間が多く,複雑な実験をする設備もないので原始的に何か作ろうと思ってやりました.

 胆礬は硫酸銅ですからまずは銅が必要です.スタート物質として銅鉱石の珪孔雀石を使いました.セリアに売ってます.

 セリアの石は品質に偏りがありますが安いのが強みです.できるだけ青いものを選びました.まずは砕きます.ケースの裏に「加工しないでください」って書いてあった気もする.


 もうきれい.かなり脆く,簡単に砕けました.乳鉢乳棒がなかったので庭にあったコンクリートの円柱で砕きました.できるだけ細かくします.

 珪孔雀石では銅はケイ酸塩の状態で含まれています.これに硫酸を作用させれば弱酸の遊離により硫酸銅ができるかと思いますが,よく知っている酸化物と酸の反応にしたかったので強熱して黒色の酸化物にしました.


 銅が用意できたら次は硫酸.実は諸事情により実家に希硫酸を持参していたのですが,銅鉱石から銅を得たので硫酸の方も原始的に行こうと思いました.そこで,硫黄を採取するために硫化水素香る山へ.


 何もとれなかったので結局帰りに寄った本屋の鉱石コーナーで自然硫黄を購入.硫酸イオンを得るためにこの硫黄を燃やして二酸化硫黄を作ります.二酸化硫黄は非常に刺激性の高い気体で,解放された空気中で硫黄を燃やし続けると永遠に二酸化硫黄を発して辺り一面地獄と化します.そのため,酸欠で硫黄の燃焼がすぐに終わるような反応容器を作ります.

 ・・・熱に弱そうだし密閉もそんなにできない容器ですがまあ十分です.あぶないです.
 ボトルの中にはプラ容器(先に作った酸化銅と水を入れたもの)と硫黄を乗せた素焼きのかけらが入っています.中の硫黄に点火してから容器に蓋をして密閉し,硫黄の燃焼が終わるのを待ちます.


 燃焼すると容器内は白色で有毒な二酸化硫黄で満たされます.容器の隙間から逃げたり水にとけたりして容器内の二酸化硫黄が消えたら銅入りのプラ容器をとり出し,しばらく放置.これで水に溶けた二酸化硫黄(亜硫酸と平衡)と空気中の酸素が反応し,硫酸と亜硫酸が平衡状態になります.生じた硫酸が酸化銅と反応して硫酸銅を作ってしまえばさらに亜硫酸から硫酸が作られることになります.実際に,硫黄を燃やす→空気に触れさせるの操作を繰り返すと無色だった溶液は緑色に変化していきました.
 
 硫酸銅の水溶液は青色ですが,そこに何らかの褐色水溶液を作る成分(鉄イオンなど)が混ざると緑色に見えます.この溶液をろ過してろ液を得ました.

 緑色になるのは鉄イオンだと思っていたのですが,これを一晩放置しておいたら溶液が青色になり,白色の沈殿が生じたので結局緑色の正体はよくわかりませんでした.

 でも目的の硫酸銅水溶液っぽい色になったので良し.溶液を自然乾燥させると,白色の不純物と目的の硫酸銅の結晶が分かれて析出します.

 ここからできる限り青い部分のみ集めて再び少量の水に溶かし,自然乾燥により結晶を作ります.これで胆礬の完成.


 すごく小さいけど,できた!うれしい!