2019年3月2日土曜日

透明な木材(transparent wood)を作ってみた

 あけましておめでとうございます.私です.今回は透明な木材を作ってみました.


 わぁ透明.不思議.なんで透明なんだろう
 透明な理由は,木材中の有色部分を化学処理で取り除き,そこに透明な樹脂を満たして固めているためです.
 木材は主にセルロース・ヘミセルロース・リグニンから成っていますが,この透明木材を作るためにはそれらの位置関係が重要です.木は植物ですから地中から水などを吸い上げるための維管束を持っています.この維管束を構成する管はセルロースやヘミセルロースでできており,管と管の間をリグニンがつなげています.維管束は幹が伸びる方向に沿って並んでいるため,木の板はその切り出し方によって性質が変わってきます.


 簡単のため,今回は上図の①,②の切り方に限って話をします.①では木の繊維に垂直に切断,②では繊維に平行に切断しています.今回の実験では①の木材のみを使用したのでこちらについて説明します.先の話から,①の木材では管が以下のような配置になっていると考えられます.
 


 このようにして作った木の板は当然②のものより折れやすく,机などの天板を作るには向きませんが,今回の実験ではこちらが適しています.というのも,上の図では繊維がスカスカですが実際にはそれなりに密に詰まっており,繊維の方向によって液体の浸透しやすさが変わってくるため,②では板全体に薬品を作用させるのが難しいからです.


 Zhuらによれば②でも反応時間を長くすることで透明木材が作れるようですが①のほうが簡単でしょう.(Zhuらの論文は参考文献(1)に示しました)

 ここまでが木目の選択の話です.では少し具体的にどう処理をするのか説明します.
 前述の通り,木材は主にセルロース・ヘミセルロース・リグニンから成っていますが,色があるのはリグニンだけです.よって,透明木材をつくるためにはこのリグニンを分解する必要があります.
 リグニンを溶かしてセルロースだけ残す操作は製紙でパルプを作る際と同じです.ここではアルカリ溶液で煮ることでリグニンを減らします.その後も少し色が残るので,漂白剤で漂白します.これでセルロースとヘミセルロースでできた木材ができるというわけです.ただし,リグニンは繊維同士をつなぎとめる役割をしているのでこのままでは脆く,すぐに壊れてしまいます.また,空洞になった部分を埋めていないと散乱によって白く見え,あまり透明には見えません.そこで,これに透明なエポキシ樹脂を浸透させます.すると隙間が埋まり,透明かつ丈夫な材料が出来上がるというわけです.

 つくりかた

 作り方はほとんどNileRed氏の動画を参考にしました.手順としてはアルカリで木材中のリグニンを抜く→漂白する→樹脂で固める といった感じです.

 木材を切り出す
 今回使用した木材はヒノキです.断面40*40 mm^2の角材を購入し,厚さ2 mm程度に切断しました.しかし手作業のこぎりで切ったので厚さにばらつきがあります.試料は10枚作製しました.



 アルカリで煮る
 Zhuらが行った実験でのレシピでは水酸化ナトリウム2.5 M,亜硫酸ナトリウム0.4 Mですが,自分の手持ちに亜硫酸ナトリウムがありませんでした.そこで,亜硫酸水素ナトリウムを使用する代わりに水酸化ナトリウムを多めに加えました(水酸化Naと亜硫酸水素Naとの中和反応で亜硫酸Naが生成すると期待できるため).
 件の論文では溶液の体積が書かれていないためNileRed氏と同様,500 mLの溶液を作ることにしました.NileRed氏レシピからの変更は,水酸化Na 50 g→58 g ,亜硫酸Na 25.2 g → メタ亜硫酸水素Na 19 g です.実際に秤量した値は水酸化Na 58.31 g , メタ亜硫酸水素Na 19.08 g でした.
 以上の試薬を400 mL程度の水道水に溶かした後,水道水を加えてビーカーの500 mL目盛りに液面を合わせました.これに木材を投入して加熱.


 沸騰するくらいの温度で,液面が下がりすぎないようにときどき水を足しながら12時間煮込みました.


 リグニンの分解物が溶液に溶けだし,最終的に黒おでんのような色になりました.
 処理後の木材は色が少し薄くなっており,ふにゃふにゃとやわらかく手で曲げることができました.
 試料を熱湯で数回洗浄.洗浄時はお湯を注ぐ→ビーカーを揺らして混ぜる→10分程度放置 を繰り返しました.


 このステップが終わったら次は漂白です.

 漂白
 試料の漂白については,Zhuらは過酸化水素水,NileRed氏は過酸化水素を使用した場合と次亜塩素酸塩を使用した場合についての実験を行っています.私ははじめオキシドール(3%程度の過酸化水素水)を使用しましたが色があまり抜けなかったので,最終的にはキッチンブリーチの原液に試料を浸して漂白しました.浸してすぐ色が抜け始めるので1時間も浸しておけば十分ですが,セルロースの分解も激しく,試料がかなり脆くなってしまいました.

 この時点で下の紙に書いたものがうっすら見えるなど,透明に近づいているのがわかりました.
 漂白した試料はアルカリ処理後と同様,熱湯で数回洗った後に燃料用アルコールで2度洗浄しました.その後は燃料用アルコールに浸して1晩程度放置しました.



 樹脂封入
 最後は2液式の透明エポキシ樹脂に封入して完成となります.アルコールをキッチンペーパーで軽く吸い取り,エポキシを練り,それに試料を沈めて真空引きして放置という流れになります.


 

 即席な容器で真空引きしたらプラ製の蓋が今にも壊れそうなほど歪んで怖かったです.真空引き中はぶくぶく泡が出ます.数分間真空引き→大気圧に戻す という操作を3回繰り返して樹脂浸透は完了としました.
 樹脂を浸透させたら固まるのを待ちます.今回,樹脂浸透させた試料をガラス容器の底に乗せて硬化させる試料(下の写真参照),ガラス容器内のエポキシに沈めて硬化させる試料とに分けました.また,1つの試料はプラ製の板(上の写真の真空引きに使っている容器の蓋)の上で硬化させました.

 ガラス容器の上に乗せて硬化させるものはエポキシが流れてしまうので,時々上から樹脂をかけて試料の露出を防ぎました.
 ガラス容器等の基盤から試料が剥がせるくらい硬化するには一日程度かかりました.


 完成


 エポキシが少し柔らかいうちに試料を傷つけないようカッターで試料を取り出し,周りの余分なエポキシを除いたら完成です.
 はじめのうちはエポキシがやわらかく,重ねたりするとくっついてしまうので完全に硬化するまでは試料同士が接触しないように置いておくとよさそうです.



 文字が書かれた紙に接触させると透けているのがわかります.

 透明木材の性状
 さて今回作った透明木材ですが,細かい性状については件の文献にいろいろと書いてあります.実際にいじってみるとわかりますが,紙に試料が接触しているときは下の文字がよく見えるのに,少し(数mm)紙から離すと見えなくなってしまいます.この木材をレンズにした眼鏡などを作るのは難しいでしょう.
 また,今回はエポキシを硬化させる環境をおおよそ2つに分けて実験してみました.結果,容器内で硬化させたものはエポキシの量が多かったので樹脂が厚いものが,もう一方は樹脂が流れてしまうために樹脂が薄いものができました.
 完成した試料を基盤から剥がした後,試料が反るのが確認されました.


 この反りはNileRed氏の動画でも少し言及されています.これについては少し考察したことがあるので気が向いたら記事を書こうと思います.とりあえず,樹脂が薄いもののほうが反りは大きくなりました.

 改善点等
 今回は1回目の挑戦としては上出来だったと思います.十分に文字が読めるほどの透明度になったのでかなり満足度は高いです.ただ,いくつか改善したい点があります.
 1つはやはり完成品が反ってしまうことです.これについての詳しいことは次回の記事に譲りますが簡潔に言うと,樹脂を厚くする・シリコン型を使って完全に硬化させた後に試料を取り出す,ということです.
 別の点として,今回は漂白操作の際に試料がボロボロになってしまったので,より弱い漂白剤で長時間処理することで試料の破壊を抑えることを検討したいです.
 今後の発展としては…何かこれを使って面白いことできないかなとか考えていますが,なかなかいいアイデアが浮かびません.

 ギャラリー


 
処理前の木材と比較.


 参考
(1)Mingwei Zhu  et al. (2016). Highly Anisotropic, Highly Transparent Wood Composites. ADVANCED MATERIALS 2016, 5181-5187
(2)NileRed . (2018). Making transparent wood. https://youtu.be/x1H-323d838 (参照日2019年2月16日)




2018年12月25日火曜日

ビーカーの中の雪景色

 Merry Christmas! みなさんクリスマス楽しんでますか?
 今日は,クリスマスにぴったりなDIYカワイイ飾りの紹介です.こういうのってクリスマス前に上げる物のような気がしますが,まあ材料用意するのちょっと面倒だから誰も真似とかしないかな…て思って今投稿です.

 タイトルの通り,ビーカーの中に雪景色を作ります

・用意したもの
 ビーカー,コップ,植物の枝(針葉樹だと見た目が良い),安息香酸

 
 では製作手順
 まずはビーカーに安息香酸を適量入れます.

 上の写真のように,植物の枝をコップで固定します.このとき,ビーカーの底に枝や葉をつけないことが重要です.
 次に,このビーカーの底を加熱します.安息香酸が溶け,気化したのちビーカー上部で冷却されて結晶が成長してきます.これが雪のようになります.

ビーカーの加熱にはホットプレートを使うのが良いと思います.私は今回ガスコンロの火を使ったので,周辺の火によってビーカー壁面が加熱されてしまい,きれいに雪が積もらない場所ができてしまいました.また,植物の葉を底につけないのは,底で溶けた安息香酸によって植物が褐色になったり,その褐色が底の安息香酸に溶けだしたりするためです.
 気化している状態の安息香酸は吸引するとむせるので気を付けましょう.ビーカーの中が曇った状態でしばらく室温で放置するとビーカーの中に安息香酸の雪が積もります.

十分冷えたら枝を底に落とすとそれっぽい.結晶は脆いのでやさしく枝を動かします.また,安息香酸はアルコールに溶けやすいため,アルコールをしみこませたティッシュ等でビーカー壁面を一部拭いてやると中がきれいに見えます.完成.
 


 
あまり写真がきれいに撮れていないけれどとてもきれいです.
 上に置いたコップにヤドリギを飾ったりしてみました.マスキングテープはダイソーのやつ



 参考
 Thoisoi2  Winter in the Glass!  https://youtu.be/bMYL24MP8JY


2018年5月12日土曜日

ガラス板1枚で1つだけ偏光を取り出す

 はうでぃ.
 今日はレーザー光源から一部の偏光の光を取り出す実験の話です.
 特定の偏光をカットする物として偏光板が有名です.偏光板を通すことである方向の偏光の光のみを通すことができますが,これを偏光板なしで行う方法があります.それは,ガラスに56°の入射角でレーザー光を入射することです.後で述べますが空気より屈折率が高い物質であればガラスでなくとも同じ操作をすることができます(その場合は入射角が変わる).
 とりあえずやってみましょう.ほい.

 レーザー光をスライドガラスに反射させ,偏光板を通じて反射光をスクリーンで観察します.ガラスに反射させることで偏光が一方向になっていれば,偏光板を回転させることで光が通らなくなる場合があるはずです.
 それでは,レーザースイッチオン
偏光板を90°回転させてみる

 偏光板の向きを変えると,上の写真のようにスクリーンに映る光の強度が変わりました.また,もともとのレーザーが含む偏光が既に偏っているので,レーザーポインタを回転させても同様の現象が起こるか確認したところ,やはり同じ結果でした.
 しかし,この条件で暗くはなったもののどうしても完全に光をカットすることはできませんでした.
また,56°以外の角度でも実験してみました.56°で光が暗くなる偏光では他の角度でも暗い傾向がありました.


 ガラスに反射させるだけで偏光の内訳が結構偏ることがわかりました.



 解説
 光を電磁波としてこの実験について考えてみました.電磁波というのは下の図のように,電場が上下に振動しながら進む波動です.実際には電場と垂直に磁場も振動しています.
波動の進行方向を軸として,上下する電場を含む平面がどれくらい傾いているか?というのが偏光です.(要するにどれくらい傾いた状態で進んでいるのか)

 通常,そこらへんにある光は様々な偏光の光を含んでいます.今回の実験ではそれらが混ざった状態の光をガラスに入射させたのでした.ここで,入射した光を以下のようなP偏光・S偏光という2成分に分けて考えてみることにします.


 言葉で説明しづらいですが,S偏光では電場が境界面と平行に振動しています.S偏光を90°回転させたものがP偏光です.この2種類の偏光はいろいろと性質が異なっています.そこで,マクスウェル方程式とか境界条件とかをいろいろいじっていると,P偏光については反射率が0になる入射角が存在することがわかります.それをブリュースター角と呼び,以下の式で求めることができます.

 n1は入射する側の媒質(本実験では空気)の屈折率,n2は透過する側(本実験ではガラス)の屈折率です.簡単な式ですが導出は気絶するほど面倒くさいのでここではやりません.理科年表曰く空気の屈折率は1.0,ガラスの屈折率は1.5くらいということですからそれらを代入してやります.

 ということで,入射角θが56°のときにP偏光の反射率が0になる,つまりP偏光の光はすべて透過してしまうことになります.
 ではS偏光はどうでしょうか.実はS偏光の光はブリュースター角を持ちません.これはP偏光とS偏光とでは反射率の式が違う形をしているためです.P偏光のブリュースター角56°ではS偏光の反射率Rs及び透過率Tsは以下のように求められます.

 ブリュースター角の条件 θb+θt=π/2 を用いました.
 以上よりこの角度ではP偏光は反射せず,S偏光も反射率は14%程度ということがわかります.
 ちなみに釣り用品の偏光グラス(水面下のおさかながよくみえる)はこれを利用しています.

 結論として,ガラスを用いることでP偏光を大幅にカットできていたと思いますが,手持ちの偏光板はどっち向きにスリットが入っているのか忘れてしまったので,「どちらかの向きの偏光が大幅にカットできた」ということにしましょう^^;
 また,どうがんばっても完全に光をカットできない問題については,どうがんばってもよくわかりませんでした.多分古典的な電磁気学ではわからない部分が絡んでいるのだと思います.多分.



 よくある質問
Q.前回の更新から1か月開いてたけどこれだけ?
A.ウン



2018年4月9日月曜日

ハウス「完熟トマトのハヤシライスソース」を食べた

 この前,ハウス食品の「完熟トマトのハヤシライスソース」を購入しました.ずいぶん前からあるハヤシライスのルウです.

 370円くらいだったと思います.
 この1箱あれば10食分くらい作れるようです.今回は1箱分すべて使い,指定の量(箱の裏側に記載)の牛肉・玉ねぎを使用し,さらにマッシュルームも入れてソースを作ってみました.



 オイシェ・・・おいしい.トマトは隠し味という感じではなく,かなり主張が激しいです.トマトがすきな人向けかも.
 今回はルウ1箱分使ってたくさんソースを作ったので完食まで数日かかりました.お肉やマッシュウームにとても合うソースだったので,ごはんを炊くのが面倒な時はソースだけ食べたりしてました.おいしかったです.

 それでは,До свидания.


2018年3月27日火曜日

NT京都2018

 はうでぃ.3月25日はNT京都2018開催ということで24日から京都に行ってました.

 24日は午前中に会場で設営のお手伝いなどしました.午後はかにまるくんひじきくんと一緒に京都水族館へ行きました.おさかなやイルカショーを見て,とても楽しかったです.特にアザラシがかわいかったです.

 NT京都は毎年3月の第3日曜日あたりに開催されるのですが今年は第4日曜日だったので毎年見られなかった京都の桜を見ることができたのも嬉しかったです.

 夕方会場に帰ってみんなでわいわいだらだらびりびりしてました.その時ちょっと撮った作品を少し紹介します.

 かにまるくんの作品,スペクトラムアナライザ.複数の周波数での音の強度をメーターが表示しています.アナログメーターを使っているのがとてもおしゃれ.左に魔剤,奥にアナゴのぬいぐるみが写っている.


 TNKSくんのテスラコイル.左に写っているのがTNKSくん,トロイドの上に乗っているのがおずくんです.素晴らしい放電.

 前日の夜から当日の朝にかけては他の出展者さんたちと一緒に夜なべして工作したり工作について話し合ったりナブラ演算子カードゲームで遊んだり.例年通り.

 
 そして当日,私は屋上でMarx Generatorの展示をしていました.はじめは一段目の昇圧に使うFBTに50Vくらいかけて10cmくらい放電させていましたが,展示開始からわずか1時間でFBTが煙と謎の樹脂を吐いて逝った.素子やICは死ぬだろうと思って替えを用意していましたがFBTは予想外だったので替えがなくて焦りました.修理にあたってFBTをその場で提供してくださった方・技術的アドバイスをくださった方,本当にありがとうございました.
 最終的にFBTへの印加電圧は安全圏の20V程度にしました.MarxGeneratorの放電は4cmとなりましたがその後はかなり安定しており1度ICが逝った程度で済みました.やはり部品に無茶させちゃいかんですな.
屋上の様子.





 来場者の方に撮影して頂いた写真です.
 屋上は晴れているととても明るく,テスラコイルの放電が見えなくなりますがこれの放電は肉眼でバッチリとらえられる明るさでした.ただしカメラでの撮影は難しく,動画での記録でも放電が全く写りませんでした.放電のパルス幅が非常に短く,晴れていてカメラのシャッタースピードが速いから,みたいなことをカメラに詳しい方々が言ってました.いろんな分野の人が集まるのでこういうイベントは本当に楽しいです.

 次の日(26日)は朝会場の片付けを終えてからナルドで時間をつぶして大阪の日本橋に行きました.デジットなどでいろいろ買い物したので今度何か作って遊ぼうと思います.



 来年も開催されたら行きたいです.